かれこれ7年前になるだろうか。私は、一匹の捨て犬の赤ちゃんを拾った。泥まみれのまるで濡れねずみのような。名前もなかった。こたつに電気を入れ、ホームセンターで買ったミルクをその子犬に飲ませてやった。
その子犬も私がけがをするまですくすく育った。犬の名は、スバル。辛いとき、悲しいとき、うれしいとき、怒っているとき、いつもよく話を聞いてくれる家族であり、友であった。病気をしてから間もなく、別れの日がやって来た。私は、いつ退院できるかわからない。二度と会うことも。おもいっきり抱いてやった。頭とのどをさすってやった。そして最後に「可愛がってもらうんやでスバル」と何度も何度も声をかけ、友人にスバルを預けた。
私は、その後も幾度と生死を分けた病が襲った。何度も何度も父母やスバルの夢をみていた。
辛い病院生活、心も体も自分の体でなかった。生き続けることも、死ぬことさえも許されない暗い長いトンネルに入っていた。
ある日、車椅子に乗る訓練を外でしていると遠い木かげに犬が見えた。懐かしいまだ幼い子どものころの面影が残るその姿を。走馬灯のようによみがえった。 涙が止まらなかった。心の底からあるだけの声と力を振り絞って「スバル」。一直線に。わき目もせずただ一直線に。枯れてしまっているはずの涙が止まらなかった。
「クンクン」とただ「クンクン」と。
私は、力をもらった。生きる力を。そして勇気を。
ありがとうスバル。
Nakabe Hiroshi
私は、現在車椅子が必要な体ですが、その辛い経験や今の体になったからこそ多くの問題点も発見しました。このサイトを通じて色々情報交換ができればと思っています。 また、Facebook、twitterにも投稿しております。よろしければ一度見ていただければと思います。
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